What’s Therapeutic Cooking?
料理活動を行うことで、高齢者にとって身体のリハビリになるだけでなく、やる気や自信を呼びさまし、生活の質(Quality of life:QOL) の向上につながります。単なる家事やレクリエーションとしてだけでなく、音楽療法や園芸療法などのように「非薬物療法」の一つとして療法的な活用が期待できるものであり、これを「料理療法」と命名しました。 「料理療法」とはすなわち、「料理活動を介して心身の障害の機能回復・症状の改善や、情緒の安定、豊かな人間関係の構築と生活の質(QOL)の向上をめざすもの」と定義できます。高齢者、障害者のみならず、健常である成人や子どもまでが対象となり得ますが、今回は特に認知症高齢者を対象としています。また、高齢者の介護予防にも効果的です。
認知症の人も料理を
「認知症になっても料理が作れるの?」「包丁なんて危ないのでは?」と不安に思われる方も多いのではないでしょうか。グループホームなどで認知症高齢者と共に料理を作る場面では、長期間料理をしていなくても、包丁の使い方を自然と思い出し、危なげなく使用するようになる人が多いのです。次の手順を示すなど、少し支援をするだけで、認知症の人も様々な料理を作って楽しむことができます。 これまで特別養護老人ホームやグループホームなどの高齢者施設で料理活動支援を行なってきた著者らの経験を生かし、支援のノウハウや、作りやすいメニューを「料理療法(クリエイツかもがわ刊)」で紹介します。詳しくはそちらをご覧ください。
「料理活動」の効用とは?
「料理活動」とは、メニューの立案から材料の入手、料理を作る(調理)、配膳、片付けまでの一連の流れを指しています。 「料理活動」は、完成品が目に見えるため、達成感が得られやすく、何より食べる楽しみがあります。高齢者にとっては、生活の中で繰り返されていたなじみのある作業であり、可能な範囲で自分で料理を作ることは、高齢者の生活の自立を保ち、介護予防にも有効なことです。料理を作ること自体、とても楽しい作業ですが、人と一緒に料理を作り、食べる、ということもまた大きな喜びです。 また、多くの工程・作業を含むため、参加者それぞれの能力に応じた「役割」の分担が可能です。このことは、日常生活における「役割」を再認識し、「自信の回復」につながります。このような「役割感」を感じることは、「料理活動」の重要な特徴といえます。特に、これまで長年、家族のために食事作りを担当してきた高齢者にとって、「料理活動」は生活の張り合いにもつながり、その人を生き生きさせる活動になります。 また最近、料理を作ることが脳の前頭前野の働きを活性化することも明らかになっています。「料理活動」による様々な効用は、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: BPSD)の緩和効果にもつながり、生活の質(QOL)の向上が期待できます。
「料理療法」と
レクリエーションの違いは?
「料理療法」の目的は、参加者個人の目標を達成し、QOLの向上につなげることにあります。そのために、個人のアセスメント(事前評価)を十分に行い、ICF(国際生活機能分類)の考え方に基づいて目標を設定し、それに対応した内容を計画することが大切です。また、実施後は評価を必ず行い、次回の実施内容にフィードバックすることが重要な過程になります。 個人の評価を行うことによって、スタッフは参加者一人ひとりと深くかかわることになり、その人をより理解することへとつながります。それにより、スタッフの観察力やケア技術が向上するという効果もみられます。 この本では、このような、事前のアセスメントや実施後の評価方法についても資料を掲載して説明しています。
2014年9月
湯川夏子
「料理療法」(クリエイツかもがわ, 2014刊)
Introductionより引用
「料理療法\THERAPEUTIC COOKING」が経済産業省特許庁より商標登録として正式に認可されました。